望遠鏡と使うと星雲が良く見える理由
2005.09.18
以前、口径の大きな望遠鏡で星雲が良く見えるようになる理由について
考察しましたが、その内容だけでは納得がいかず、今回、その続編を書
くことにしました。なぜ、望遠鏡で星雲がよく見えるのかその理屈がわか
らないことには安心して星雲を眺めることもできません。
(以前の内容はこちら)
前回、この問題に対して、
・像の明るさはひとみ径の二乗に比例すること、
・ひとみ径が変わっても、コントラストは変化しないこと、
・コントラストが一定なら少々暗くなっても暗順応がそれをカバーすること、
・像が大きくなると検出限界コントラストが向上すること
といった要因が影響していることを指摘しました。
つまり、拡大すると少々暗くはなるが、暗順応が進めばカバーされるし、
像が大きくなることによる検出限界の向上が期待できるわけです。
明るさを保ったまま像を拡大するには口径を大きくする必要があるわけで、
これが口径を大きくすることの効果ではないかと考えたのです。しかし、
実際にはそんなまわりくどい話ではなく、もっと直接的に口径の増加に伴
って星雲の淡い部分の見え方が向上している気がします。
実は前回の文章を作成しているとき、はたと気が付きました。
口径が大きくなれば、解像度が向上するのと同じように、荒い模様に対し
てもコントラストが向上するのです。コントラストが向上すれば周辺へ散逸
していた光が像に集中しますから、多少なりとも像も明るくなります。
コントラストと解像度、この二つは別々の特性のように思われがちですが、
信号(濃淡の模様)が光学系を通過する際の劣化の度合いという意味に
おいて本質的に同じものなのです(迷光の影響などはおいといて)。
それは開口(絞り)による回折が原因となり発生する信号の劣化です。
その特性は解像度と同じように、口径そして光学系の精度等に影響され
ます。星雲を見るのにも高精度な光学系が必要なのです。
この事はあまりにも当たり前のことに思えます。
しかし、もしかしたら大きな勘違いかもしれません。そのような迷いがあって
前回はあえて触れませんでしたが、2年たってもあまり自分の理解に進歩
がないので今回、あえて述べることにしました。
以下、もう少し詳しく説明をします。
上に述べたような光学系の信号伝達特性はMTFと呼ばれます。
下のグラフは無収差光学系のMTFを示したものです。

横軸の空間周波数は模様の細かさを意味しています。
縦軸はコントラスト、つまり入力信号1がどれだけ劣化して伝わったか、その
比を現しています。
細かな模様になるほど、コントラスが0に近くなり、これが光学系の解像限界
です。
人間の眼がどこまで微弱なコントラストを検出できるかが問題になりますが、
明所視では0.1程度でほぼ一定、暗所視では暗さや像の大きさ、はては事前
情報などによって変化します。
なぜ、入力信号がそのまま伝達されないかというと、それは開口しぼりによる
回折が原因です。開口絞りつまり口径が大きい方が信号が劣化は小さくなり
ます。
無収差光学系の場合、口径により決定される、ある空間周波数(カットオフ周波
数)へむけて低下する右下がりの曲線となります。
上のグラフでは横軸(空間周波数)が正規化されていますので、実際の特性を
確認するために横軸を置き換えて計算してみました。
カメラレンズなどの場合はフィルム上に出来だ像の解像度が問題となりますの
で、ラインペア/mmをとります。その場合、理想光学系のMTFを変化させる要因
はF値のみです。望遠鏡では物体の模様がどこまで見えるか、すなわち分解能
が問題ですから、横軸をラインペア/度に換算して計算しました。なお、この場合、
理想光学系のMTFは口径によって決定されます。

この曲線の右端がどこまで伸びているかが、分解能を現します。
口径が大きくなるほど分解能が上がります。当然ですね。
ではグラフの左の方は何を意味しているかと言うと、低空間周波数領域のコント
ラスを示しています。つまり、ヌケです。ぼんやり広がった星雲がどんなコントラス
トで見えるかはここに注目しなくてはなりません。口径が大きいほどコントストが
向上していることがわかります。
右下がりの一本の曲線なので、口径増大につてれ、分解能が上がるのと同じよ
うに空間周波数の全領域に渡ってコントラストが向上します。最初に述べたように、
解像度とコントラストがMTFという特性で示せる以上、口径が大きくなって、解像
度が向上すればコントラストも向上するのです。
実際の光学系では、精度や中央遮蔽の影響で、MTFは上に示したグラフよにも
大きく低下します。しかし、同一の精度を持った光学系であれば、口径が大きい
方がヌケも解像度も向上するのは明白です。
最後にABERRATORというフリーソフトでシミュレーションした結果を示します。この
ソフトはMTF計算や星像シュミレーションをやってくれるとっても便利なものですが、
大きな視野をシミュレーションできません。以下の画像は0.5分くらいの画角である
ことに注意してください。
オリジナル画像

75mmによる像の劣化
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150mmによる像の劣化
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300mmによる像の劣化
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実際には口径が変われば、同じ倍率と同じ明るさで観察することはできません。
以下で、大きさや明るさを感覚的にいじってみました。
(ここから下はシミュレーションではありません)
倍率を一定として、明るさをそれらしくいじってみました。
暗所視の場合、肉眼の解像度が大幅に低下しますから、実施はこんな感じでしょうか。
次ぎにひとみ径一定として、倍率を変化させてみました。
肉眼の解像度の低下を考慮すると実際にはこんな感じでしょうか。
この結果を見ると、実際の見え方には肉眼解像度の低下が大きく
影響して
いるようです。
今回は、光学系の結像性能のみに注目して星雲の見え方を検討してみ
ました。実際の光学系では迷光やフレア、グレアなどの影響も大きいよう
なので注意してください。